子宮内膜症に対する治療法として、
手術療法と薬物療法がありますが、薬物療法の中に、アレルギー治療に対する治療薬、ロイコトリエン拮抗剤が3年ほど前に
読売新聞で取り上げられ、注目されました。
以前このブログでも、
内膜症は「炎症」に似ている、と書きましたが、アレルギー反応ではその中で炎症が起こっています。抗アレルギー剤を用いることで、炎症を抑えることが可能で、つまり内膜症においてもその活動性を抑制できる可能性が示唆されます。
報道されている記事によれば、アレルギーに深くかかわる「肥満細胞」が内膜症組織に多く見られ、ロイコトリエン拮抗剤は肥満細胞を抑制しやすいのだそうです。
また内膜症の患者さんが、アレルギー性疾患を持っていることが多いそうで、両者の関わりの点からもロイコトリエン拮抗剤の効果が期待されています。
さらにロイコトリエン拮抗剤服用後に手術を行うと、内膜症特有の癒着組織が剥がしやすくなり、手術中の出血や手術時間の短縮につながったそうです。副作用は少なく、胃がもたれやすくなる程度、とも。
ここまで書くと、夢のような内膜症治療薬? と思ってしまいますが、我々産婦人科医師の中でも、EBM(科学的な根拠がある治療法)が得られているとは思えない、と言うのが一般的だと思います。産婦人科医師の学術団体である、日本産科婦人科学会が編纂している「子宮内膜症取り扱い規約」でもそうですし、国際的にも知れ渡った治療法、と言うわけではなく、治療効果の可能性がある、とまでしか言えません。
ロイコトリエン拮抗剤についてまとめました。

上記の価格は薬価です。気管支喘息の治療目的に処方する場合は保険適応となるので、その3割負担となります。服用方法は気管支喘息の場合で、まだ子宮内膜症に対する至適量は明らかではありません。
また薬価は2008年4月の診療報酬改定で変更になる可能性があります。
内服方法から判断すると、シングレア、キプレス(これらは全く同じくすりで、発売元で名称が異なるだけです)に軍配が上がりますね。価格面ではアコレートを40mg/日服用するのが最も安価です。副作用的なものはどの薬剤もほとんど同じですが、注意点として、妊娠・授乳中の影響を添付文書から拾ってみました。
内膜症治療としてのロイコトリエン拮抗剤の利点の一つに、治療中に妊娠が可能であることです。
偽閉経療法、
ディナゲスト、
OCはいずれも妊娠中の投与が禁止されていますが、そもそも治療中は理論的には妊娠をしません。ロイコトリエン拮抗剤は服用中に妊娠が判明したらすぐに中止すれば、いずれの薬剤でも臨床的には問題なさそうです。
効果としては、自治医科大学附属さいたま医療センター婦人科の発表では、約7割の患者さんで、
内膜症の疼痛が軽減されたそうです。効果が強かったのは、症例数が少ないためエビデンス(科学的根拠)レベルが低いもののオノンよりもシングレア、キプレスだったそうです。

現段階での薬物療法の効果、副作用を除いてランク付けすると、以前の「
子宮内膜症の治療法」で掲げた表を再掲しますが、偽閉経療法(GnRHアゴニスト)、ディナゲスト、低用量ピル(OC)に次ぐ? 鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症剤、NSAIDs)、漢方療法、女性ホルモン作用のある健康食品より上位にランクされるかな、という印象です。
偽閉経療法で内膜症が増悪することはほとんどないといってよく、OCでは軽快傾向を示すことが多いですが、内服中に増悪することも経験します。鎮痛剤の一部では効果が示唆されていますが、漢方療法や健康食品はほとんどエビデンスがなく、効果ある方もあるかもしれない、位で、我々としては積極的に治療法として勧めるものではありません。
この抗アレルギー剤ですが、鎮痛剤と同等、もしかするとOCと鎮痛剤の間に入るかな、というのが私の印象です。あるいは他の方法と併用することにより、効果を増強できるかもしれない、とも思われます。
ただ、これはEBMが得られていない、治療経験がない、と言う段階のものなので、内服治療を希望される方、興味のある方には相談していきたいと思います。
ロイコトリエン拮抗剤について補筆しました。あわせてお読みください(2008年2月23日)
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