ここ数年、
卵巣チョコレートのう胞のがん化が話題になっています。
チョコレートのう胞のがん化については、以前より知られていました。
子宮筋腫が悪性化しないのと対照的です。
がん化はチョコレートのう胞患者さんの、約1%くらいにみられる、と言われていますが、このがん化はアジア人に特徴的で、欧米人にとってはチョコレート嚢胞のがん化はとても珍しいことだそうです。
問題となるこの頻度ですが、チョコレートのう胞を持っている患者さんの総数が分からないため、この数字はあるいはもっと低いかもしれません。
現在日本産科婦人科学会を中心に、多くの患者さんの予後を追跡する大規模な調査が行われております。
数年後には明らかな確率が出されてくると思われます。
しかし、産婦人科医ならば、一度ならずもチョコレートのう胞ががん化した患者さんを診たことがあると思います。
がん化は大体40歳代が多いようです。50歳を過ぎ、閉経を迎えてからは、内膜症自体が良くなるので、閉経後に内膜症の定期健診に通われる患者さんが少ないため、この年代にも多いのかもしれません。
私も最も若い方は、30歳代の方をお二人診たことがあります。
またがん化はチョコレート嚢胞が10cm以上の大きさの時に多い傾向があるそうです。
卵巣がんには様々な組織型があります。組織型とは、がんの性質を表す、と説明できるかもしれませんが、がん細胞の形により、分類されます。子宮頸がんの多くが扁平上皮がん、と言う組織であるのと、これも対照的です。
チョコレートのう胞のがん化は、「明細胞がん」と「類内膜腺がん」の二つの組織型が知られており、前者は予後の悪いことで知られる組織型です。
もちろん、がんなので、治療が遅れる、また進行がんであれば、どんな組織型でも予後は悪くなりますが、卵巣がんは様々ながんの中でも、比較的予後が良い、と知られており、特に抗がん剤の効果が良いことがその大きな理由です。
類内膜腺がんは、抗がん剤の効果が良く、一般的に悪性度が高い、と言われている明細胞がんも、チョコレート嚢胞からのがん化では、予後が良いとされ、発見が早ければ反対側の卵巣を残すことが出来、手術後も妊娠が可能なことがあります。
いずれにしてもチョコレート嚢胞のフォローをしっかり受けて頂き、がん化を早く発見する必要があります。
この記事では、内膜症、チョコレートのう胞を持つ患者さんの不安を煽るようなつもりは毛頭なく、また、チョコレートのう胞の患者さんに、将来がんになるから早く手術しなさい、と言う意図もありません。がん化率が1%であることが、高いか、低いか。患者さんにとってはとても高く感じるでしょう、100人に一人ががん化、と考えると。チョコレートのう胞を持っていない、近親に患者さんがいない方であれば、99人ががん化しない、ととれるかもしれません。どちらも立場により、解釈が異なると思いますが、われわれ医療者からすると、チョコレートのう胞=手術、とは考えにくいです。
手術を必要とする方へは、お勧めしていますが、もしかしたら薬物療法で改善できるのではないか、また薬物療法もせず、自然経過をみていくだけで済む方もあるのではないか、こういう観点は、必ずしも
手術療法が100%でないことを踏まえてです。手術に根治的方法を選択できれば、再発もありませんが、根治的とは、卵巣、ないしは子宮も含めて摘出する方法。内膜症を抱える世代は、ほとんどの方が卵巣も、子宮も、失うことのできない大切な臓器です。
根治的な手術法に対し、(名前は悪いですが)姑息的な手術法が卵巣を残す方法。
大体3割くらいの方が再発します。早い方は術後半年以内です。
手術によるトラブル、合併症も皆無とは言えず、手術後の卵巣機能低下もみられます。
これらの観点から、将来がん化?、だったら今のうちに皆さんが手術を、と言い難いのです。
どうぞご心配な方は、お気軽にご相談ください。その方のライフステージにあった、また価値観を尊重した治療法を提示したいと思います。