2014年05月22日

子宮筋腫の腹腔鏡下手術機器の報道内容を受けて 〜子宮筋腫手術の術前術後の患者さんへ〜

今朝のNHKニュースなどをご覧の皆さんから心配の声が上がっています。

「女性の子宮に出来る良性の腫瘍、子宮筋腫の手術の際に特殊なカッターを使うと、腫瘍ががんだった場合、がんを転移させるおそれのあることが分かり、産婦人科の医師で作る学会はリスクは極めて低いものの、心配な人は医師と相談してほしいと呼びかけています。」

とあり、「子宮筋腫にこの機器を使うと悪性になる」かのような誤解が広がっています。


腹腔鏡下手術とは、腹部に5〜12ミリ程度(時に3ミリから4cm)の穴を開け、内視鏡(カメラ)を腹腔内に挿入して行う手術のことで、婦人科のみならず、外科や泌尿器科、整形外科など幅広く行われ、創が小さいため手術後の回復や、美容的にも優れている方法です。

産婦人科の領域では、子宮筋腫や卵巣嚢腫、子宮外妊娠などに用いられ、最近では子宮摘出も比較的安全に行えるようになってきました。

子宮筋腫の手術では、例えば5cm、10cmといった大きな筋腫を取ることは出来ても、その小さな穴から身体の外に回収することは出来ません。

そこでモルセレーターという特殊なカッター機器を用い、12ミリの円筒状に筋腫を細かく切り刻み、体外に回収します。



今回問題となったのは、子宮筋腫と術前診断されたものの、子宮肉腫であった例が約1%強に認められ、それを腹腔内で細かく切除した時に悪性細胞を腹腔内に拡げてしまった手術例があったことを受けて、FDA(米国食品医薬局、日本の厚生労働省にあたる)がこの機器に対して勧告を出したことです。

我々腹腔鏡下手術を行っている医師としては、この機器が悪性の原因ではありませんし、この機器は悪性細胞を拡げてしまった可能性があるものの、真の原因は、術前診断にあります。

良性の子宮筋腫と比べて子宮肉腫は当然進行が早く、数ヶ月の間にどんどん増大します。
超音波やMRIで子宮筋腫と鑑別する診断も、簡単ではありませんが、ほとんどの例で可能です。
また子宮肉腫の場合は血液中のLDHという酵素が上昇することが特徴的です。

つまり、手術前の診断がうまくつかなかった例がそれだけあると言うことで、医療水準の高い日本では1%強の発生率よりもずっと低いと思います。
私もこれまで恐らく数百の子宮筋腫の腹腔鏡下手術を行い、立ち会ってきましたが、1例も子宮肉腫であったことはありませんでした。

海外では子宮摘出術後の子宮回収にもモルセレーターが用いられることがあり、国内では子宮を細切せずに摘出するため、その辺りも発生率に大きな差があると思われます。

それでも病気診断はどう考えても正確な診断がつかないこともあり、それは医療の限界を越える人体、病気の多様性、複雑さ、と言えるかも知れません。


産婦人科の手術現場では、このFDAの勧告を受け、既に5月に入ってからこのモルセレーター、米国のジョンソン・エンド・ジョンソン社の機器は入荷が規制されています。
今後現場に在庫がなくなり次第、子宮筋腫の患者さんは開腹手術に切り替えられるか、創を大きくして回収するなどの対応が迫られます。
一方で、独国のストルツ社製のモルセレーターは、日本の輸入代理業者から、出荷停止が既に解除されており、この違いは我々にもよく分からないところです。

一刻も早く解決し、手術を待機している患者さんに迷惑が及ばないことを願うばかりです。


子宮筋腫の腹腔鏡下手術をお受けになった方も、手術後の病理組織診断で間違いなく良性の子宮筋腫であることが確認された場合はご心配に及びません。
ましてや1年以上経過しても術後の検診で異常が認められていなければ、今回の報道の内容を気になさる必要はないと思います。

報道の終わりにあった、「今後、この手術を受ける患者にはリスクをきちんと説明すること」これは当然行わなければなりませんが、「すでに手術を受けて不安な人には医師に相談するよう呼びかける」とか、「今まで、この器具を使った手術を受けた人は病院でもう一度診察を受けてほしい」とありますが、私は、今早急にあえて相談する必要はなく、お腹が張る、痛む、などの不調がある場合に限って、そうでなければ、手術から1年以上経過していれば、通常の術後定期検診をお受けになればいいと思います。


posted by 桜井明弘 at 22:26| Comment(8) | TrackBack(0) | 腹腔鏡下手術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月28日

ハイビジョン内視鏡

腹腔鏡下手術には、カメラ、スコープ、モニターの視覚機器が欠かせません。これまでの腹腔鏡はCCDカメラ、すなわちアナログ画像で行なっているのですが、近年デジタルハイビジョンの機器が導入されつつあります。

先日、賛育会病院で行っている腹腔鏡下手術に、オリンパス社のご好意により、ハイビジョン内視鏡のシステムをお借りして手術することができました。

ハイビジョンの画像は一般のテレビでもお分かりのように、くっきりと鮮明。臓器や血管の細かい部分がはっきりと見えます。縒(よ)り糸といわれる縫合糸の縒り目が必要以上に見えました。
また特徴的なのは、被写界深度がとても大きいことで、アップにしたり、遠めにしたりするたびにピントを微調整する必要があったこれまでの機器に比べて、圧倒的にストレスのない手術が行えました。

術者の手術のやりやすさは、すなわち患者さんのメリットです。リスクを回避し、手術時間の短縮、ひいては麻酔時間の短縮、出血量の減少が望めます。

鮮明な画像は情報量が多いため、目が疲れたりというデメリットがあると思っていましたが、このシステムではそのような心配はまったくありませんでした。

難点はやはり高価な点。視覚機器をそろえるだけで、600万円強がかかります。これまで使用してきた機器を転用できればいいのですが、新しくフルセットそろえるにはきっと大台に乗ってしまいます。

とはいえ、内視鏡下手術は患者さんへの低侵襲という点からもこれからどんどん導入されるでしょう。同社もこれからの標準機器としてデジタルハイビジョンのシステムを拡げて行く方針だそうです。


posted by 桜井明弘 at 22:54| Comment(2) | TrackBack(0) | 腹腔鏡下手術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月06日

内視鏡下手術、ガイドライン作成に向けて

第46回日本産科婦人科内視鏡学会学術講演会、本日全日程が終了しました。

http://cl-sacra.seesaa.net/article/21855181.html

私個人は、「腹腔鏡下手術術前管理指針」として、手術前に最低限行っておかなければならない、良悪性診断、つまり、良性か癌か、という鑑別診断を、画像診断、特にガドリニウムという造影剤を用いたMRI検査に比重を置く発表をしました。
このテーマは順天堂大学に勤務しているときからの研究で、今回は現在の勤務先、賛育会病院で行った700名余りの腹腔鏡下手術患者さんの術前診断を元に発表を行いました。

一方、今回は、「内視鏡下手術の標準化を目指して」というサブタイトルがあり、学会が目指す内視鏡下手術のガイドライン作成を踏まえたシンポジウムがあり、かなり白熱した討議がなされました。

これまで様々な医療事故や医療ミスが不幸にも起こっており、特に新しい手術分野である腹腔鏡下手術では、産婦人科に限らず、事故が発生し、社会問題になっています。
ガイドライン作成は、これらの反省から、学会主導で、より安全で信頼出来る治療とすべく、また施設間格差を少しでも無くす方向で、定められようとしています。

簡単な例で言えば、ある病院で卵巣嚢腫の診断を受け、手術を勧められた。その病院では、腹腔鏡の技術がないため、開腹手術の説明がなされた。同じ患者さんがセカンドオピニオンで他の病院で相談したところ、腹腔鏡下手術が可能であると説明された。
誤解の無いように、全ての卵巣嚢腫が腹腔鏡で行えるわけではありません、国内の標準的レベルであれば、これは腹腔鏡、と考えられる状態を例にしています。

たまたま診断され、手術を勧められた病院では開腹手術しかできない、貴女は他の施設であれば腹腔鏡で出来る、ここで治療を受けるか他の病院に紹介しましょうか? という呈示は当然あって然るべきです。

ガイドラインと言えば、単純にこういう治療指針の元であるべきですが、悪く取ると、反対にこのガイドライン以外の治療は勧められないのではないか、とも取れる面が問題視されています。

上に、「全ての卵巣嚢腫が腹腔鏡で行えるわけではありません」と書きましたが、例えば私が研修した順天堂大学産婦人科は、国内で一番の腹腔鏡の手術件数を誇ります。ただ多いだけではなく、技術的にもトップクラスです。そういう施設ですと、卵巣嚢腫なら、ほとんど全て行えます、かく言う私もそういうスタンスで腹腔鏡を行っていますが、同じような難しい腹腔鏡での手術で多くの患者さんが病気を克服出来たのにもかかわらず、万一、手術でトラブル・合併症が起こってしまった場合、ガイドラインにはなかった、他の標準的な施設だったら、最初から開腹手術を勧められたに違いない、とガイドラインはネガティブなとらえわれ方をしかねません。

ちょっとわかりにくいところがあるかも知れませんが、ガイドラインはそういう諸刃の剣の性格がある気がします。

私の信頼する後輩の一人が一緒にシンポジウムを聞いており、ガイドラインは、医療者と患者さんの双方のコミュニケーションツールであるべき、と言いましたが、まさに私も同感です。
誰のためのガイドライン、と言って、患者さんが第一にあるべきだし、患者さんが治療を選択する上での情報、素材であるべきだと思います。
posted by 桜井明弘 at 01:59| Comment(24) | TrackBack(1) | 腹腔鏡下手術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月03日

内視鏡学会

正しくは、「第46回日本産科婦人科内視鏡学会学術講演会」と言います。
いよいよ本日からプレセッションが、明日から2日間に渡って本番の学会が、東京で開かれます。
http://square.umin.ac.jp/jsgoe/

内視鏡下手術、産婦人科領域における内視鏡下手術は比較的以前から行われており、診断に用いられた時期を越え、ここ10数年、治療的な腹腔鏡が全盛となっています。
低侵襲、美容的、術後の長期的な合併症が少ない、などの利点があげられます。

私が所属している順天堂大学は国内でも腹腔鏡下手術のメッカと言われるほど有数の手術件数、技術を有しています。

学会はこの手術を中心に新しい技術や治療法、合併症発生の反省からより安全な手術法の提案などが発表されます。

私もほとんど毎年発表していますが、今回は内視鏡下手術の術前管理・治療指針、中でも悪性疾患の鑑別に焦点を中てた発表です。

勿論、発表だけではなく、新しい知見を吸収し、より多くの先生方との交流により、自分を高める努力をしてきたいと思います。
ラベル:腹腔鏡下手術
posted by 桜井明弘 at 06:07| Comment(2) | TrackBack(2) | 腹腔鏡下手術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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