7月29日(日)、参院選が行われます。一人ひとりが持っている一票は小さいですが、大勢の意見が集まれば国政を左右することができる、大切な機会です。当日投票できなければ、期日前投票もあります。是非有権者の皆さんに投票をしていただきたいものです。
最近では各党が選挙公約として、マニフェストを発行しています。
街頭で配布されたり、選挙事務所で手に入れられたり、インターネットでダウンロードしたりも出来、各党の考えを読み比べることが出来ます。
さて、当ブログでは、来る参院選までの間、各党のマニフェスト、特に医療問題について、私が読んだ感想を書いていきたいと思います。
まずGoogle検索で、「
マニフェスト 参院選」でヒットした順に読んでいきます。検索すると一番上位にあったのは「
民主党」でした。
民主党のマニフェストは「3つの約束」と「7つの提言」からなっており、最初に党の重点政策が列挙されています。
医療問題、育児問題では
「約束2 安心して子育てできる社会。1人月額2万6000円の「子ども手当」を支給します」
「提言2 医師不足を解消して、安心の医療をつくる」
の2項目に着目しました。
『子ども1人当たり月額2万6000円の「子ども手当」は中学校卒業まで支給』されるそうで、出生時から計算すると、12年間で374万円にもなります。こう書くと、確かに育児費用の負担軽減にはなるでしょうから、「産みにくい」、「育てにくい」社会構造の中で、少子化対策と言えるかも知れません。額は妥当でしょうか、これには各家庭での収入や家計にも左右されると思いますが。財源は様々な無駄をなくすことにより増税しなくても確保できる、本当に可能なのかは私には単純には分かりませんが。
その他、「公立高校の授業料の無料化を進め、高校・大学生への奨学金制度を拡充する」、としています。
さて、「提言2」の医療問題です。7つの提言のうち、雇用に次ぐ2番目に位置していることは、それだけ重要視している、と言うことでしょうか。
医師不足の解消については、「医師・看護師等の配置を適正化する緊急行動計画を策定」する、と書いています。具体的な適正配置をとる、
「特に、産科・小児科の医師不足は早期に解消します」は心強いと思います。「女性の医師・看護師等が仕事を続けやすく、また、復職しやすい環境を整備します。そのために、院内保育所の整備や復職のための研修を進めます」
非常に大切なポイントです。女性医師の場合、男性と同じ教育を受け、研鑽を積んでいるのに、結婚、妊娠・分娩、育児によって、第一線を退かざるを得ない、これは他のどの職種にも言える事かも知れませんが、専門技術を持った、特に仕事にのっている世代の女性が、半ば引退してしまうのは、本人は勿論、職場も社会的にも損失である、と言えます。
自転車や自動車の運転は、しばらく休んでも、ほとんど問題なくまた運転できますが、医師の仕事はそうは言えません。しばらく休んでいるうちに新しい技術や薬が開発され、またこれは運転とも近いかもしれませんが、自分の技術も後退します。
このような、第一線を離れた時期のフォローを、研修会や講習会によって補い、「即戦力」として復職できるよう支援する、また、とかく復職は職場内での軋轢が生じることもあるでしょう。社会的なコンセンサスが必要です。
現在のように、医師不足ですと、どの医局も人員が欲しいため、この点は解決できそうです。
もう一つ大切なポイントは、「院内保育所」です。
コストがかかるため、院内保育所が整備されている病院、余り多くないと思います。私が見てきた病院でも、なぜか、看護婦さんのお子さんは入れるのに、女医さんの子供は入所資格がない、なんてところもありました。どうしてそんな不公平が生まれるのか、理解しがたいですよね。
「全国どこにいても、最善のがん治療や最新のがん情報が受けられる体制をつくります」
いよいよ日本人の死亡率首位に立ったのが、「がん」です。
高齢化が進めば進むほど、長生きをするようになったのですから、がんにかかる方も単純に増えてきます。
勿論、死因となる病気ですから、対がん戦略は重要な医療問題、研究課題だと思います。それを国が支援してくれることは国民にとって有用ですし、予防医学が重視されてきた現在、我々第一線に立っている医師にとっても、ありがたい話です。
ただ、一般的に言って、「全国どこでも、最善の治療」は美辞麗句、の感があります。これだけ医師不足が問題となっているのに、どこでも同じ医療が受けられるか、疑問ではありませんか。
マニフェストには、さらにこれらの大項目の詳細な記載、政策各論があります。
「1.くらし」
の
「2.小児科・産科医をはじめ医療従事者不足を解消」
には、
「小児科では開業医が地域小児科センターで時間外外来を担当するといった協働作業による集約化をさらにすすめます。産科医は勤務が過酷なだけでなく、訴訟リスクなども高いことから、無過失補償制度と医療事故原因究明のための医療安全委員会を設立します」
特定の業種に就くマンパワーが不足している場合、「集約化」による効率化を上げるのは、一つのキーワードだと思います。しかし、この文面だけで、小児科医・産科医不足の解消に繋がるでしょうか。
あなたが医学生で、これからどの科に進もうか、悩んでいるときに、この文を読んでこれがなされた暁に、よし、リスクの高い、ハードな小児科、または産科を選ぼう! と、思えるでしょうか。
「医療費抑制と称して10%削減された医学部定員を元に戻し、地域枠、学士枠、編入枠とします。各診療科の必要医師数を明示し、医療圏ごとの数値目標を提示します」
医学部定員は医療費抑制が原因だったのですね、医師が全国的に大体充足したから、とされていたと記憶していました。
医療圏ごとの各診療科に必要な医師数、確保する目標を掲げるのは分かりますが、一体どうやってそれを達成するのでしょうか。
また「1.くらし」の中に、
「4. 医療事故の原因究明と再発防止」
があります。
その「@医療メディエーターを養成」や「A『裁判外紛争処理機関』」は非常にいい考えだと思います。全国の医療訴訟を見ると、医療機関側には非がない、偶発的に起こった症状の変化、と思われるものも裁判に発展しています。
医療訴訟の経験が豊富な弁護士が患者さん側についた場合、カルテを見ることで大体医療機関側の非があるか、止むを得なかった案件か、判断がつくのですが、余り経験がない場合、患者さんからの話だけで判断し、訴訟を起こす、という事例が目に付きます。勝てるかもしれないし、勝てなくても示談に持ち込めば病院から見舞金が取れる、その両方がだめでも、弁護費用はもらえます、そんな構図の気がしてなりません。
客観的に中立を保ち、無駄な裁判(時間と費用の面で)を少なくし、双方が納得できるようこの「紛争処理機関」には期待をしたいと思います。
その一方で、『B国の機関として『医療安全委員会』を設置」することにより、医療事故は徹底的に追求し、再発を最大限防ぎ、事故を繰り返す医療機関に対する行政指導を行い、全医療機関で安全な医療が受けられるよう、よりよい医療の新しい時代を期待します。
他にも「環境」や「政と官」など、面白く読みました。「外交」は少し浅薄に思い、もっと現代の国際問題に突っ込んだ内容だったらよかったのに、と思いました。これらは専門外なので、ブログでは取り上げませんが、残り1週間足らず、各党のマニフェストを手に取り、じっくり読んでみてはいかがでしょうか。