手術に際しては、手術手技自体が主であり、どうしても閉創が従となるきらいが長い間続いていました。とはいえ、感染対策などの注意は怠ってはいませんでしたが、産婦人科では、患者さんが皆さん女性、と言うこともあり、わたしが産婦人科医になったころから、既に創も綺麗に治す、と言う観点から手術に臨んでいたと思います。
タイトルにあるScarless Healing、scarは「瘢痕」、創は治る過程で簡単に言うと炎症、アレルギー反応が起こり、やがて治癒にいたります。
Scarlessはいかに創を小さく、創を綺麗に、と言う概念を表したもので、10年ほど前に形成外科の手法を取り入れたり、薬物療法を併用したり様々な工夫がありました。
我々もよりよい創傷治療を目指し、いい、とか、お勧め、と言われるものはほとんど取り入れた経緯がありますが、現在では、ニヘイさんの手術で用いた方法に落ち着きつつあります。
まず手術を受けた患者さんから見ると、身体に残った手術の痕は目に見えるその創だけだと思いますが、例えばお腹の手術を例にすると、お腹の中側から、
・腹膜
・時に筋肉
・筋膜
・脂肪
・時に真皮
・表皮
と少なくとも4層に縫合されているのです。目に見える創は表皮だけです。
どの層はどのような縫合方法がいいか、どの縫合糸がいいか、それにあった針はどのサイズ、どんな形、どの層は省略したほうがいいか(かえって縫わないほうがいい場合もあるのです!)、綿密に縫ったほうがいいか、と、追求しだしたらきりがなく、形成外科や一般外科の先生方のご意見、ご講演を拝聴しながらベストと考えられる方法を取り入れ続けています。
腹腔鏡下手術に限って言うと、私が行っているのは5mmと12mmの創だけです。12mmの大きい創は腹膜(時に省略)、筋膜、脂肪(時に省略)、真皮の縫合を行っており、これに用いるのは3-0というサイズの比較的細い縫合糸、これは数ヶ月で体内に吸収される糸です。表皮はかえって傷が残るため、スキンステープラ、日本語で言えばホチキスは用いず、真皮縫合で表皮を合わせるように寄せて、カラヤヘッシブを貼り付けて終了です。
以前に用いていたステープラは、外すときの痛みや、それまで引き攣れる痛みがある方もあったので、腹腔鏡下手術では使っていません。
真皮埋没縫合は糸の結び目が皮膚の上には出ず、皮膚の下で縫い合わされています。稀にこの結び目あたりの糸が皮膚の上に飛び出してくることもあります。
これは指に刺さったとげがやがて異物反応により押し出されてくるのと似ていますが、通常は出てくる前に身体に吸収されます。ただ結び目が表皮の直下で作られているので、吸収される前に出されてくることがあるのですが、決して引っ張ったり、はさみで切ったりせず、ほっといてください。どうしても気になる場合は消毒した上で糸だけ切りますのでどうぞ受診してください。
またカラヤヘッシブですが、これまでの創傷治療の概念を一転させた製品です。
これまで私も習得してきた創の管理は、第一に消毒。第二に乾かす、でしたが最近では大分様変わりしました。消毒は最低限です。手術中にも行いますが、創を消毒液でぬらさない、むしろ水(生理食塩水)で洗い流します。
乾かす、も、これまでは創を覆っていたガーゼを再三取り替えるのが創を清潔に保てると考えられてきましたが、これもせっかく創が治りかけたているのをいたずらに邪魔するだけだそうです。
カラヤヘッシブはこのような一転した概念、Wet Healingを実現させる製品です。
最近では市販されている絆創膏にも取り入れられていますね。
創からの浸出液を吸収し、親水コロイドがぶよぶよになって創を覆いますが、このWetなぶよぶよが創の治るのを早め、またより綺麗な創傷治癒に役立っているのです。現在取っている方法、術後の経過を見ると、今迄で最も創の仕上がりが綺麗になっていると思います。
(一部補筆の上再掲)
(初出2008年1月24日)
なるほど〜という思いで読ませて頂きました。
ところで、ずっと疑問に思っていた事なのですが、腹腔鏡を入れた「おへそ」は、どうされているのでしょうか。
5mmと12mmの創だけ縫合すると言う事は、おへそは縫わずにそのままなのでしょうか。仕様もない質問ですみません。
ご質問の件、ごもっともです。
おへそですが、基本的にはおへそは縫合しなくても、通常問題はありません。おへそはくぼんでますよね? くぼんでいる、と言うことは創がそのままにしておいても左右よっているのですぐにくっつきます。それでも原則的に縫合していますが、どうしても形が人それぞれ異なります。おへそが小さい方は縫合自体が不可能であることもあります。
あの透明なテープはカラヤヘッシブというのですか。1回シャワーを浴びたらぐちゃぐちゃになったので、傷のところは乾燥させておいたほうがいいと思っていたので、すぐに取ってしまいました。
もう1年半になりますか、手術後は早く感じますね。
おへその糸、今頃出てきたのですか??
そうでしたら、ちょっと驚きです。メリッと、どんな糸でしたか? 教えてください。
カラヤヘッシブについては、ご案内が悪かったかもしれません。
ただ、効果は数日貼ってあれば充分、という説もあり、剥がれたらそのままで、と指導していると思います。
現在ではお創はいかがでしょう。
おへその糸は最近になって出てきたのではなく、手術後からずっと青い糸が見えていましたが、無理に取ってはいけないと言われていたので、触りたいのをずっと我慢してました。特におへそだけに恐いし。。。で、もういいだろうと思って、へそごまと一緒にメリッと!(笑)傷はもう痛くはありませんが、やっぱりすっかり元通りにというわけにはいかないですよね・・・
子宮癌検診の大切さも改めて実感しました。先月また検査をしましたが、クラス2よりはどうしても下がらず、半年後にもう一度検査をして、それで終わりということになりました。それ以降も1年に1回は検診に行かなきゃと思いました。ちなみに、頸癌の検診だけ受けに行くと、いくらくらいするんですか?
こちらではA型が一たん緩んできていたのがまた流行始めてきました。 先生もまだまだお気をつけて下さいませ。
カラヤヘッシブ、優れものですね!!
水に濡れてぶよぶよになった時は気持ち悪いテープだなあ〜と思っていたんですが、そのぶよぶよにそんな秘密があるなんて・・・ テープがだめになってしまってはがした時、かさぶたみたいなのは一緒にはがれてしまったけど、傷跡は綺麗にくっついていました。
真皮埋没縫合、どのように縫われているのか、文章で書くのはやはり難しいですよね、実際に縫っているところ見てみたいですね。 縫合と言うととかく表皮だけしか縫っていないような気がしてしまいましたが、こんなにたくさんお腹の中で縫われているんですね。しかも脂肪まで! 脂肪は縫わないと何か痛みとか支障がでるんでしょうか? どの層にはどの縫合方法が良いのか、あたり気になりますね。
そんなに縫合の仕方があるんですか?
どの針を使うか、糸の細さをどうするか、などとても奥が深そうですね〜
鈴亜さんのこと、覚えてますよー。患者さんのお名前や病気、どんなことで悩んでいたか、治療中にどんなトラブルや合併症があったか、正直部分的に忘れてしまうこともありますが、大体のキーとなることは記憶しているつもりです。
青い糸、大切に(?)されていたんですね。でも途中でメリッとやったら、もしかしたら感染を起こしたかもしれないので、ここまで取っておいて正解でしたね。
細胞診もクラス2で落ち着いているようで、ほっとしました。
もしかしたら悪いかもしれない、の段階で私が退職し、専門の外来に依頼したので、気になっていました。
クラス2でほっとする、意外に聞こえますか? 実はクラス1にまで改善(?)する必要はありません。これは改善ではないです。
クラス1、2は異型細胞なしの意味で共通です。つまり悪性は勿論、前がん病変の可能性が全く無い、というお墨付きです。クラス1は細胞の変化が全く無い状態、クラス2は多少認められる、という意味です。多少の細胞の変化は「生理的=病的でない」と解釈してください。一応クラス2の場合は6ヵ月後再検、はお勧めします。
是非、半年後のクラス2、1であっても必ず1年後との細胞診はお受けくださいね。
こちらでもやはり大流行、とはいえないものの、A型が散発しています。
流行期に入って、再びワクチン希望の方が受診されています。
真皮埋没縫合の件ですが、どうにかしてお見せしたいですが、こういう公の場では不快なお気持ちになる方もあるでしょうね。
いずれ検討してみたいと思います。
創部の縫合に脂肪も縫う、当然一度切開した部分なので、元通りに修復します。ただ、脂肪は縫いすぎはいけません。外科の先生方は最近縫わなくなった、とおっしゃいます。縫合は組織をくっつける一方で血管の回復を妨げ、創部の治癒過程に必要な血流障害になる可能性があり、我々もなるべく少ない縫合で行っています。
二律背反ですが、脂肪組織を縫合したほうが、表皮の治りは綺麗になる、のも真です。
この辺が技なのかもしれません。
また今回も下がらなかったかと検査結果を聞くたびに落胆していたのに、クラス2で良いなんて、ホント意外です。でも安心しました。定期的に検査を受ければ問題ないのですね。
我々の説明が足りなかったのでしょうね。今後も定期健診を必ずお受けくださいね。
無事退院しまして自宅療養中です。日々痛みも減ってきているのを実感しております。弱虫な私が手術を決心し無事終了できたのも先生の適切なアドバイスのおかげです。本当にありがとうございました。
さて、大きな山を越えると気になるのは、傷口です。傷口を少しでも目立たなくするためにテープを張ったり、また、術前に先生から説明のありましたステロイド軟膏を塗る等対処法はあるとお伺いしましたが、これらは病院に行き処置していただくものなのでしょうか?(手術に比べましたら、非常にマイナーな質問で申し訳ないです。)
テープに関しては、ネット上の情報で知りましたが、あまり効果がないので現在はおこなわれていないのでしょうか?
以前に手術創について書いたので、コメントを勝手ながらこちらに移させていただきました。
退院、おめでとうございます。
また術後の順調な回復、安心しました。
創の管理ですが、上に書いたような方法は手術時に気を付けていることです。
術後の管理は患者さんが行わなければなりませんが、勧められるのは内服剤と外用剤です。ステロイドのパッチ、貼付剤を処方しています。術後約6ヶ月行うと、大分いいようです。
次回の診察は先になるので、お時間あるときにいらしていただけば、説明、処方いたします。
多発性子宮筋腫の手術後翌年に妊娠して、先日帝王切開で出産しました。
昨年の筋腫の手術の時もでしたが、今回も、恥骨の上あたりの傷の下部末端から筋層を縫った?糸が飛び出てきています。皮膚の薄いところだからしょうがないかとも思ってはいるのですが、若干炎症気味です。(でも吸収糸って炎症を起こして吸収されるんですよね?)昨年も粉瘤ができて痛がゆいのが今回の手術まで続いていたという経過があり、今回もとても頑張って先生も綺麗に仕上げようとしてくれていたのですが…。
痛がゆくさえなければ、多少のケロイドっぽいのは我慢できるので、何かよい対処方法はないでしょうか?
教えていただけると嬉しいです。
手術後どれくらい経過しているかにもよりますが、感染性の炎症でなければ、ステロイド系の薬剤や、単に炎症を抑える薬剤など、いくつか対応法があると思います。
実際に診察していただいた方がいいと思います。
糸が出ているときには、出ている部分だけ切ってもらうこともあります。