当クリニックで迅速検査ができる5つのホルモンは、月経から排卵、黄体期(高温期)、妊娠に至る過程で大切なホルモンです。
最初にホルモンを紹介しましょう。
FSH;卵胞刺激ホルモン
LH;黄体化ホルモン
E2;エストロゲン=卵胞ホルモン
P4;プロジェステロン=黄体ホルモン
hCG;ヒト絨毛性ゴナドトロピン
ちょっとややこしいですね。
月経が初来したばかりのときは、どのホルモンも低値です。したがって、この時期に検査することで、ホルモンの異常が無いか診断することが出来ます。
排卵に向けて、下垂体からFSHが分泌され、卵巣の卵胞(卵子が入っている袋)を刺激して育てます。これにより、卵胞の中で卵子を取り囲む顆粒膜細胞が増殖し、顆粒膜細胞からE2が分泌されるため、徐々にE2の値は上昇してきます。大体E2が200pg/mlまで上昇すると、今度は下垂体からLHが分泌され、このLHにより卵胞が排卵します。このLHの上昇はLHサージとよばれます。LHは上昇してから24時間で再び低下しますが、LHサージから36-40時間後に卵胞は排卵します。
この排卵期から、卵胞は黄体化し、黄体からP4が徐々に分泌されます。P4は、特に黄体(高温期)中期に重要な役割を持ちます。これまでE2によって厚くなってきた子宮内膜がP4によって、受精卵の着床に適した分泌期内膜へと変化します。すなわちP4の分泌不全があると、これを黄体機能不全と呼びますが、受精卵が着床しにくいのです。またP4には基礎体温を高くする体温上昇作用がありますので、基礎体温の計測によってある程度P4の分泌が分かるのです。
受精卵は排卵から約1週間で子宮の内膜に着床し、非常に増殖するスピードが速いですから、子宮内膜にもぐりこみ絨毛膜と呼ばれる組織を作っていきます。この絨毛膜から分泌されるのがhCGで、妊娠反応とは、このhCGの分泌の有無を見て、妊娠の判断とするのです。着床直後からごく僅かに分泌されている、とも言われていますが、実際には着床後1週間、すなわち排卵から2週間の予定月経時期に初めて検査で反応が出る値まで高くなります。
ちょっと脱線しますが、hCGと排卵させるホルモンのLHは構造が似ている部分があり、少し前の時代では、検査してもどちらのホルモンが高いのか判定できませんでした。現在もこの似ている構造、を利用して、hCGを薬剤として、LHの代わりに、つまり排卵させるため(排卵のコントロール)に注射するのに用いられます。近いうちにLHの製剤も開発され、使用できるようになるらしいです。
妊娠が成立しなかった周期では、排卵から大体2週間で月経となりますが、これは排卵後の黄体の寿命とされています。黄体が2週間で退縮するため、そこから分泌されてきたE2とP4も低下してきます。E2とP4の強調作用により子宮の内膜が厚くなり、着床に適した状態が作られてきたのに、これらのホルモンが少なくなると内膜は剥がれてしまいます。これが月経です。内膜は、赤ちゃんを育てる組織ですから非常に血流の豊富な組織です。そのため内膜が剥がれると、これを栄養していた血管から出血をしてくるわけです。
もう一つhCGについて。hCGを院内で迅速に測る理由には、妊娠の判定と、子宮外妊娠や流産の診断の大きな参考となることがあるからです。特に子宮外妊娠は、診断が遅れると生命の危険さえ起こることがありますから、これを見逃すわけには行きません。そのため、院内で20分くらいで結果が出るような準備をしました。
卵巣機能不全、排卵障害について、シリーズ記事を執筆中です。
コンテンツトップページはこちらです。
HCGとLHの構造が似ているという点で質問させてください。
今回生理3日目のLH検査で20という高値がでました。前周期AIHをしましたが高温期2週間で生理になりました。ただこの高温期の間着床したのでは?と感じる瞬間がありました。もしかしたら着床したあと流れ、微量のHCGがまだ残っていて今回のLHの検査数値に反応したのでは??と考えられますか?いつもは生理3日目のLHは6くらいです。
過去日記へのいきなりの質問すみません。よろしくお願いします。
ご質問有難うございます。
結論から申し上げると、今回の月経は、残念ながら妊娠ではないと思います。
理由は
LHとhCGの構造は似ていますが、現在の検査試薬はこれらの構造を完全に区別できます。
LHとhCGは分子的にアルファ鎖とベータ鎖をもっており、アルファ鎖が共通、ベータ鎖が異なります。
かつての検査ではこの区別ができませんでしたが、現在では異なるベータ鎖に特異的な検査を行っており、LHとhCGを検査上混同することはありません。
上の記事では分かりにくいかもしれませんが、20年前ならさとこさんのお考えも充分理解できますが、現在では、まず無いのではないでしょうか。
ただ、不思議なのは月経3日目のLH値がそこまで変動していることです。
月経期、特に3〜5日目のLHは安定しており、正常値10を下回る周期と、20という高値を示す周期が同じ方に見られることが不思議です。
LH高値は、同時にFSHが高値である場合、卵巣機能の低下を表し、FSHが正常である場合は、PCOS、多嚢胞性卵巣という排卵障害をきたす病態のホルモン値です。この点、はっきりさせておいたほうがいいと思います。
流産だったのではないか、というお気持ちを傷つけてしまうようなコメントしかできず、ごめんなさい。
過去日記への質問、と恐縮されていますが、不思議とこの記事、ロングセラーというか、掲載後8ヶ月も経つのにこのブログの記事上位ヒットに入っているのです。これを踏まえて、内容を再考してアップしようかとも思っていましたが、さとこさんのご意見も参考とさせてください。
とても貴重なご質問を頂き有難うございました。今後とも、ご意見、ご質問、お待ちしていますのでよろしくお願いします。
早速のお返事ありがとうございました。
詳しく説明いただいて疑問に感じたことが解消されて気分がすっきりしました。
これで今周期の自分のLH値が今のからだの実力なんだと受けとめられます。
急激なLHの上昇は不思議なことなのですね。私はいま完全自然周期のみでIVFにトライしていてピルも排卵誘発剤もここ1年ほど使用していないので心当たりがあるといえば漢方薬局ですすめられたサプリメントぐらいです。
このサプリメントについて検索してみるとFSHとLHの分泌を促す作用があるとの記述をみつけました。
しばらくこれをお休みして次周期にまたLHの検査をしてみようと思います。
先生ほんとにありがとうございました。
またサプリメントでFSHとLH分泌を促す作用、とありますが、差し支えなければ、どのようなサプリメントでその効果があるのか、後学のために教えてください。
排卵チェックを行ったところ、血液検査の結果排卵直後と診断されました。その際正確な数値は忘れてしまったのですが、黄体ホルモン値が2.?、LH値は通常に戻っているとの事でした。排卵前から排卵直後にかけて、両ホルモンはどのように推移していくのでしょうか?具体的な数値も教えていただければありがたいです。かなり前の日記への質問で申し訳ありませんがお願い致します。
LHサージは24時間持続する、と上に書きましたが、低下してくると黄体ホルモンが僅かながら分泌されてきます。
黄体ホルモン2台ですと分泌されてきている、と判断し、LHが通常の値に戻っていると既に排卵しているのではないでしょうか。ただ、黄体ホルモンが低いので、やはり排卵直後と診断します。この辺りは、超音波所見やこれまでの経過、基礎体温を参考に総合的に評価します。
具体的な数値ですが、私も多くの患者さんに説明しながら、説明しきれないことがあります。恐らく、正常の値に個人差があるためだと思います。
この記事は、掲載から時間が経っているものの、ほとんど毎日読まれている上位にランキングされており、分かりにくいけど関心が高いところだと思います。
ミカさんが望まれるように、近いうちにここのホルモンの推移をまとめてアップしようと、書きかけているのですが、なかなかグラフなどが上手く描けないため、苦労しています。ですが、今行っている生殖医療パンフレットの更新にあわせて、こちらも作っていこうと思っています。ご意見有り難う御座いました。
あ、ミカさん、産婦人科クリニック さくらで説明を受けましたか? 施設で使っている器機によって、正常の値、判断値が異なることがあります。差し支えなければお知らせ下さい。
早速お返事頂きありがとうございました。診断はクリニックさくら様でしていだだきました。超音波と血液検査を合わせて排卵直後とのご説明でした。大変ご丁寧に説明いただいたのですが、その後「排卵直後」とはどのくらい前の事を言うのか、またホルモンの値からおおよその時間が分かるものなのかなと疑問に思いご質問させていただきました。(なかなかそこまでの判断は難しいとは思いますが)お忙しいところありがとうございました。
分かりました。直後、の精度はそれほど大きく影響はしませんが、分かる範囲でお答えしていきたいと思います。
コメント有り難う御座いました。