まず最初は年齢別の臨床妊娠率です。
「臨床妊娠率」、とは妊娠反応が陽性となり、子宮内に胎嚢(たいのう、赤ちゃんの入った袋)がみられた率で、その後出産に至ったのはもちろん、残念ながら流産となってしまった場合も含まれます。
妊娠反応が陽性であったものの、その後胎嚢が確認される前に出血が起こってしまった化学流産は含まれていません。
分母は人工授精の施行回数で、合計1724周期のうち、その後当院に来院され、妊娠の有無が確認できた1629周期です。つまり、その人工授精で妊娠したか出来なかったか、追跡できなかった方は除いています。
一番右のTotal、をご覧頂くと、5.6%、93周期が臨床妊娠された数となり、グラフにはありませんがこのうち出産されたのは72周期、4.4%となります。
年齢別にみると、40歳までは妊娠率の低下は余りみられず、最も顕著に妊娠率の低下がみられるのは、41歳以降で、実に0.7%、となります。
これは高度生殖医療でも同様の傾向ですが、高度生殖医療の胚移植周期あたりでは、41歳以降の臨床妊娠率は9.6%(出産率は4.1%)と成績が一桁異なります。
高度生殖医療では、卵管因子や男性因子が治療対象となり解決され、さらに「絶対に妊娠しない」不良胚は治療対象外となることが理由と考えられます。
人工授精の臨床妊娠率、最も高い年代、31〜35歳でも6.9%ですから、その低さに驚かれるのではないでしょうか。
しかし、次のグラフもご覧下さい。
累積臨床妊娠率を表したもので、母数は臨床妊娠された方です。
その方が何回目の人工授精で妊娠したのかを表しています。
これによると初回の人工授精で26%、実に人工授精で妊娠された4人に一人は初回治療で妊娠しているのです。
以後、2回目、3回目、4回目までは約17%ずつ妊娠されている方が増え、5回目からはこの伸びが鈍化し、6回目で92%に達します。
つまり、人工授精全体の妊娠率は決して高くないものの、この方法が合っているカップルは、早いうちに妊娠が成立しています。
この成績を元に、人工授精の施行回数は、4回から多くても6回くらいが目安、と考えています。
今回の成績から、まとめると、
・41歳以降の人工授精の妊娠率は著しく低いです。
・人工授精の施行回数は、4回から6回を目安に考えましょう。
ただし、妊娠率が低下する、36歳以降の方やAMH(抗ミュラー管ホルモン)が3.0(33歳相当)以下の方は、3回位を目途に、治療方針を検討することをお勧めします。
また当院での精液検査の結果を説明しているときにお話ししていますが、ご主人の精液の「高速直進運動精子」が7000万を超える方たちで、タイミング法を持っても妊娠に至らない場合、人工授精にステップアップしても妊娠がほとんど成立しません。人工授精は基本的に精液所見が良くない方に行う治療法で、当院の治療成績を元に、この数値以上の、つまり男性因子が全くないカップルは卵管や卵巣の因子、また受精障害がある可能性が高いため、体外受精など、高度生殖医療の適応と考えています。
(初出:2013年2月5日)
(補筆修正:2015年2月4日)