2006年11月19日

国際シンポジウムの発表 精子由来の卵活性化因子

今日は、昨日のブログでも触れた、シンポジウムでの発表内容、つまり私が研究したことについて書きたいと思います。

http://cl-sacra.seesaa.net/article/27709906.html

少し難しく聞こえることもあると思いますが、お付き合い下さい。
開業後の私の治療内容にかかわる可能性も大いにあるのです。

「細胞」と書きだしたら、引く方もあるかも知れませんね、ましてや「細胞活性化」と書いたら尚のこと。
ここでは私が携わった「受精」現象に関わる「卵細胞活性化」について書きます。

受精は「卵細胞」すなわち、「卵子」と「精子」が出逢い、赤ちゃん(人間)のもとになる「受精卵」が作られる現象。
卵管の中でこの現象が起こり、妊娠に繋がるのですが、卵管障害がある方、原因不明や男性因子で不妊症の方に行う、体外で受精卵を作る治療法が「体外受精」です。

我々の研究テーマは「精子由来の卵活性化因子」でした。
卵子は受精の直前までいわば眠った状態、止まっているのです。それを起こしてあげる現象が「卵活性化」。これがないと卵子は眠ったままです。同時に精子に存在する父親由来の染色体を卵子に入れて、初めて一人の人間の遺伝子、染色体ができあがるのですが、この卵活性化の機序がずっと分からないままでした。
確実に言えるのが卵子内にカルシウム、骨のもとであり、化学で習いましたね、健康食品として摂っている方もあるでしょう、の濃度が波状に高くなったり低くなり、その後で受精現象が進み、一つの受精卵が2つ、4つ、8つと分割し、やがて子宮に着床する「胚盤胞」へと育つわけです。

では卵活性化を起こす物質は何か、どこから来るのか、どうやら精子らしい、精子の中の何がこれを起こすのか、長い間研究者が先を争うように解明したいと思ってきたことでした。
私が研究していた約8年前には、精子をすりつぶして卵子の中に注入すると受精現象が起こる、つまり精子の中に何か卵子を活性化する物質がある、と言うことまでしか分かっていませんでした。
4年前、これがどうやら「PLC」と言う物質らしい、と分かり、現在ではこれが定説となりつつあります。勿論まだまだ異論はありますが。

では、このPLC、どうにかしてヒトの体外受精に用いることが出来ないか、と考えるのが我々臨床医の役割。
例えば、体外受精や顕微授精で上手く受精卵が出来ない方があります。もしかしたら、この精子由来のPLCが無かったり、本来の形を作れていないのかも知れません。

ここまでが我々の研究と治療に向けたアイディアで、こういう内容を発表しました。

このシンポジウムで再会した、以前に精子由来の物質を発見する争いをしていた英国の研究者が、ヒトのPLCを作ることに成功、何とかヒトの体外受精に応用出来ないか、と私に持ちかけてくれました。

まだアイディアの段階ですし、検討の余地は沢山ありますが、こういう一つのひらめきから、沢山の不妊患者さんの治療法が発展するものと思い、開業後、不妊診療において何とか治療法として確立出来ないか、その研究者と相談していこう、と約束したのでした。

もう少し具体的な内容については、今後また書き込みたいと思います。
posted by 桜井明弘 at 01:16| Comment(4) | TrackBack(3) | 生殖医療(不妊治療)の研究 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
先日はありがとうございました。おそらく卵活性化についていろんなことをやってきている先生がいますが、このPLCζがおそらく一番生理的に近いことは間違いありません。毒性もまずないでしょう。もしPLCζを使用することができれば、卵活性化の分野では大きな衝撃を与えることでしょう。おそらく精子に卵活性化障害があり不妊に悩んでいる方はたくさんいます。僕は続けてヒトのPLCζについて研究員達と臨床に入っても調べていこうと、真剣に考えています。今回の素晴らしい国際学会をきっかけに桜井先生の病院が世界的に知れわたるような病院になるのではないかとそっと期待しています。
Posted by アーサー at 2006年11月19日 19:08
「精子由来の卵活性化因子」。以前、加藤の医院長が書かれた本に載ってたなーと思い、読み返してみたら、ありました。医院長ではなく、KLCの研究開発部長が書いたものでしたが。本の中では、様々な研究の末、人為的な卵子活性化法の応用、つまりARTへの応用は断念した。と結んであります。
5年ほど前の本なので、その頃は、その物質が恐らく「PLC」であろうという事は分かっていなかったという事ですよね。

以前KLCで、採卵前のホルモン値も良く、採れた卵のグレードも良い。精子の方も濃度、運動率、奇形率も全く問題ない。なのに受精しなかった事がありました。
医師に、なぜ受精しなかったのかと尋ねた所、
「人間だってさ〜、良い人そうに見えて悪い人もいるし、悪い人に見えても実は良い人っているでしょ。卵も精子もそれと同じ。採って、受精させて見なきゃ分かんないの。」
と言われたことがあります。思わず笑ってしまいましたが、この言葉、妙に納得しました。

つまり、不妊治療の分野、もっと言えば人間の体は、まだ解明されていない事があまりにも多い、という事を、この言葉は端的に表しているのではないかと思ったからです。
妊娠・出産は、まだある意味ブラックホールで、あらゆる医者や研究者がそのブラックホールを、外側から突いて、中の様子を調べようとしている状態なのかと思います。

PLCを作る事に成功したのは、そのブラックホールの正体を掴む大きな一つの功績だと言う事は、素人の私にも何となく分かります。ヒトの体外受精への応用も是非成功するよう、先生頑張ってください。
Posted by 横浜住民 at 2006年11月19日 23:35
アーサー先生、こちらこそ有り難う御座いました。
先生の発表も素晴らしかったし、先生の協力もシンポジウムの成功に大きく寄与していたと思います。
いつかは先生とPLCで、是非コラボレーションしたいと思っていますので、よろしくお願いします。
それにしても、「世界的に知れわたるような病院」は大袈裟でしょうー、でもクリニックをそう言う面でも目指したいですね。

横浜住民さんは、色々な事を熱心に勉強されていますね、頭が下がる思いです。
卵活性化については、多くの研究がなされており、しかし、どれもが果たして「生理的」なんだろうか、と疑問が湧きます。この点、アーサー先生もかかれていますが、決定打になるのではないか、と期待しています。
Posted by 桜井明弘 at 2006年12月03日 03:15
シスコム (有)フォースジャパン代表国部さま。
書き込み有難うございます。TBにリンクして頂く事は全く差し支えません。
ただ、「購入が発生した場合は謝礼をお支払いたします」とあったので、失礼ながらコメントを削除させていただきました。

当ブログ、お気づきかと思いますが、一切のアフィリエイトを行っておりません。
というのも、きれいごとに聞こえるかもしれませんが、このブログは営利行為が目的ではなく、クリニックのご紹介や理念を患者さん、読者の方と共有したい、という思いから始めたものだからです。

それよりも、不妊に効果あるサプリ、に興味あります。どのような成分がどのように効果を産み出すのか、勉強したいと思います。本当に効果があるのであれば、むしろ私から患者さんに紹介したいと思いますので、ご連絡をお待ちしております。
Posted by 桜井明弘 at 2007年09月22日 00:54
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