「エンブリオ・グルー」は、ヒアルロン酸を多く含む胚移植用の培養液であるのが特徴です。ヒアルロン酸は水に溶けると粘着性、というか、簡単な表現をすると、ペトペトします。多くのお化粧品に含まれていることから想像はしやすいのではないでしょうか。
子宮内膜にもヒアルロン酸が存在し、受精卵(胚)の着床を助けているものと考えられています。
当院でも2011年2月より、同意いただいた患者さんにこのエンブリオ・グルーを用いた胚移植を行っており、一定の治療成績が得られたため、原則胚移植の際に使用することとしています。
これまで報告されてきたエンブリオ・グルーの成績の中には、
・着床率が34%上がる
・妊娠継続率が24%上がる
と言うものがありました。妊娠継続率とは流産せずに出産に至る確率です。
また妊娠率は上昇しないが、反復不成功例(何度か胚移植をしても妊娠に至らない)では上昇する、と言うものが見られました。これは明らかに子宮に原因がある、着床障害を改善しているものです。
エンブリオ・グルーはFDA(米国食品医薬局)でも認可されており、もともと子宮内膜に存在する成分であるため、子宮(母体)や赤ちゃんに悪影響が無いとされています。
ここで当院での治療成績をご紹介します
グラフについて簡単に説明します。
棒グラフは左から、Cook社の培養液を使っていた時の成績、右へIrvine社のSingle Step Mediumと言う培養液、そして右は同じSingle Step Mediumで胚培養して、胚移植の際にこのエンブリオ・グルーを用いた成績です。
それぞれの棒グラフは、下から
・hCG(-);妊娠しなかった
・hCG(+);血液検査で妊娠反応は出たものの、化学流産になってしまった
・GS(+);子宮内に胎嚢がみえたものの、その後流産になってしまった
・FHB(+);赤ちゃんの心拍がみえたものの、その後流産になってしまった
・OG;出産に至った、あるいは現段階で妊娠が継続されていることが確認されている
で、数字は胚移植数に対する%(例数)です。
ここで注目して頂きたいのが、当院で胚移植を行った方たちの中で、Single Step Mediumと比べて、胚移植時にエンブリオ・グルーを用いただけの違いですが、妊娠率は1%上昇、これは上の報告と比べて低いのですが、妊娠継続率(OG)は34%上昇しています。つまり、出産に至る方たちが増えているのです。
この妊娠率の改善、反復不成功例に対する治療効果の報告から、検査が出来ないものの、子宮内膜に分泌されるヒアルロン酸の分泌が少なくなっている方があるのではないか、と推測されます。
これを受けて、上にも述べたように、当院では今後エンブリオ・グルーを使用し、妊娠率向上のさらなる検討を行っています。
エンブリオ・グルーを用いることで、胚移植1回あたり、6000円(税別)のご負担をお願いしています。
疑問点や、使用を希望されない場合は、遠慮せずに担当医師にお申し出ください。
*当院では、高度生殖医療において、3か月を目途に様々な試みを行っていきます。今後もその都度詳報をお伝えして行きたいと思います。
一度妊娠した既往があるとエンブリオ・グルーは使用してはもらえんないのでしょうか?
とても難しいご質問です。
現在高度生殖医療では、いわゆる標準化された医療、治療法がまだ確立していない、まだまだ発達段階と言わざるを得ません。
そのため、施設によって、また担当される先生によってお考えが異なることもあります。
ご質問を頂き、一部記事を修正してアップしますが、当院では治療成績が向上し、また他施設でも特に反復不成功例の方達の妊娠率が改善されている、という報告がみられます。
記事内でも述べたように、子宮内膜に本来あるべきヒアルロン酸の分泌が減少してきている病態があるのではないか、と推測しています。
よく担当の先生とご相談くださいね。また書き込みをお待ちしております。
去年の12月に採卵後、1月に胚移植の予定でしたが移植のタイミが合わず今月(3月)に胚移植を行い先日(20日)HCGが陰性でした。受精卵のグレードは1で7分割の状態での移植でした。担当の先生から『前回は2回目のタイミングで妊娠したのにねぇー、今回は卵がすごくいいものだったのに。なんでだろうねー』と言われ、『ステップバックでもしてみようか』と、話が出てしまいました。
私はエンブリオ・グルーを使ってみたいのですが、ステップバックの話がでた時、使用してはもらえないと感じました。
そこで、今回書き込みをしたのは貴医でエンブリオ・グルーを使って移植を希望したいのですが可能でしようか。
やはり、感染症や出血凝固の検査以外の書類や(感染症と出血凝固の検査結果は持っていますが、普段のホルモン値などの結果は手帳に記載しているだけの情報しかありません)通院している病院の紹介状が必要ですか?
できれば、次のリセット後から治療をお願いしたいのですが、無理でしょうか。
お忙しい中メールを読んでいただきありがとうございます。
転院に際しては、通院されている医療機関からの紹介状をお持ちになることが望ましいですが、これは絶対必要ではありません。転院に際してはなかなか医師に紹介状が欲しいことを伝えるのは難しいことが多いですよね。
受け入れる医療機関でも、これまでの治療経緯について、患者さんの記憶に頼るだけでなく、医師からの紹介状があると尚良いのですが、それが難しい場合、お持ちになっているデータをご持参されるだけでも結構です。改めて通院されている医療機関に問い合わせる必要があることもありますが、まずは受診して相談してみて下さい。