2006年07月16日

電子カルテ導入

これまでクリニックや病院では、患者さんの診療記録、いわゆるカルテは医師、看護師、コメディカルによる紙の上に手書きされているのが当然でした。
数年前まではこれほどコンピューターが普及しているにもかかわらず、驚くことに電子カルテが認められなかったのです。

その理由はカルテ内容保全。悪く言えば、PC上の記録は、後から改ざんすることも出来たからです。

国のIT事業促進に伴い、上記の問題点が解決された電子カルテが認められ、今や多くの業種から、電子カルテが開発、販売されています。

電子カルテの利点は一体なんでしょう。

第一に診療の効率化が挙げられます。
PCが職場の作業効率に寄与し、家庭、個人でも所有するPCの便利さを享受している方は本当に多いと思います。
診療においては、患者さんの診察が終わり、カルテの入力が済むと同時に会計計算が終わります。つまり、スタッフにとっては複雑な医療会計を習熟する必要がなく、また会計のために患者さんをお待たせすることがなくなります。スタッフは効率化のお陰で手があいた時間を他の業務や患者さんへのサービスへと傾けることが出来ます。

次はリスク・マネージメントの点。
現在、医療界では、他業種に比べてリスク・マネージメントが遅れている、と非難されています。他業種でも「間違い」「ミス」はあってはならないですが、医療の現場での間違いは患者さんに致命的な損害を与える可能性があります。
ある一定の確率でヒューマンエラーは起こり得ます。ただ、エラーを限りなく0に近づける努力が必要で、カルテの電子化はこれを助けてくれます。
簡単な例ですが、字の汚い先生が、カルテに看護師に向けた指示を書き、それを読んだ看護師、相変わらず汚い字だなあ、これはこの薬だろうな、ともしも間違えてしまったらどうでしょう。PC上の文字に悪筆、良筆はありません。

そして省スペースに寄与することです。
電子カルテのシステム、クリニックの規模でしたら、家庭用のPC、とまではいきませんが、皆さんの職場で利用しているシステムよりもずっと小さなもので済みます。
一方で紙カルテを保存するための倉庫、大きな病院ではもの凄い設備が必要です。クリニックでも同様で、電子化することで限られたスペースの中にカルテ倉庫を作らなくて済む分、診察室や待合室に面積を割くことが出来ます。
当クリニックでも、待合室やトイレにゆとりを持った設計を考えています。
またカルテを持ち運ぶ作業も大変でした。今勤務している病院では、病院評価機構の認定を受けているのですが、カルテは集中管理が求められています。患者さんが来院、受付すると、地下のカルテ室に連絡があり(これは自動)、手作業でカルテを探し、外来棟の各階、各診療科に届けます。各診療科受付から各診察室へ。このような手作業が電子カルテによりなくなります。患者さんの診療受付が済むと、受付患者さんのリストが診察室のPC画面上に並んでいるんですから。
効率いいと思いませんか?

その他、電子化のメリットはまだまだありますが、デメリット、欠点もあります。
まずはこれまでフリーハンドで書いていたカルテをキーボード入力しなければならないこと、この点が最も電子カルテ導入に医療現場が二の足を踏むところです。手書き入力支援ツールも相当いいものが開発されてきていますが、そもそもPCって、文房具、筆記用具のはず。幸い我々の世代は入力業務やPCを扱うことに慣れているので、この点はあまり苦に感じません。
「キーボード診療」という言葉があります。PC入力は意識的に集中します、手書きよりも。その分患者さんの顔を見ない、画面を見つめる、患者さんの声に耳を傾けられない、そんな電子化の悪い面を揶揄した言葉です。
ブラインドタッチ、までいかなくても、入力業務に慣れれば、他の診療効率が改善している分、患者さんとのふれあいを却って持てるようになるのではないか、と思っています。

他にはセキュリティーの問題、患者さんの記録は相当高次のプライバシーです。ましてや産婦人科ともなると、なおさらです。悪いことにこれを盗もう、悪用しようとする人がいて、我々もセキュリティーには十分配慮していこうと思っています。
また、データ保全の問題。実はこのブログを書いていて、30分くらい書いた時点で一度文章を消してしまったのです。カルテではこれは許されませんね、同時に保管している記録も同様です。PCがダウンしたときの対策、停電時の対策も考えておかなければなりません。
通常、PCは二つのサーバーを併用し、どちらかがダウンしても、もう一方で診療が続けられるようにします。また、その日の診療分はその日のうちにDVDなどに記録し、安全に保管します。さらにシステムには無停電装置、と呼ばれる電源のバックアップ体制を敷きます。これは培養室の培養器も同じです。

さて、電子カルテ、どこの業者さんにしようか、と後半を書こうと思っていたのですが、流石にこのブログ長すぎて読むのも大変ですね、一度ここまでにしたいと思います。
ラベル:電子カルテ
posted by 桜井明弘 at 16:19| Comment(4) | TrackBack(2) | クリニックの設備 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
知人が電子カルテを業者任せで導入しようとしたところ、改善すべき点が山積みのシステムを導入契約させられ、慌てて解約した事があります。医師・看護士は説明に納得した、というか大手企業のシステムというだけで信頼し、多少の疑問点も「そういうものか」という感じで簡単に導入しようとしましたが、一般企業育ちの私からみると、こんな状態で納品するのか?と思うほど未完成。業者抜きの話合いでやっと医師も実態を把握し、解約したのです。
大手企業のシステムですら、未解決の問題が山積みでした。業者の説明は都合の悪い点を省いてしまう事が多く、実際に使ってみた方のレポートや自分達でのシュミレーションの重要さを痛感したようでした。
先生はその点、流石に慎重ですね。
Posted by at 2006年07月18日 23:02
コメント有り難う御座います。
頂いたコメントは、近いうちに載せる、電子カルテ・後半の伏線となります。
私は恥ずかしながら、全く電子カルテに触れたこともなく、イメージ、概念が全く沸きませんでした。
業者のデモ、プレゼンを聞くにつれ、また同じ事だ、から、前の業者はこれが出来る、って言ってたけど、お宅は? なんて、いっぱしの電カル評論家気取りになりました。

大手企業のシステムですら、未解決、ではなく、私の印象では、大手企業だから解決出来ない問題点が山積み、と思いました。中小企業、ベンチャーの方が、こちらの要求を簡単にプログラミングしてくれそうです。
Posted by 桜井明弘 at 2006年07月18日 23:25
お久しぶりです。開業の準 備は順調ですか?
今、電子カルテのブログを見させていただいたのでメールしま し た。
僕も電子カルテを導入する予定で、色んなものを見て検討してい る ところです。
CRも入れる予定なので島津のsimCLINICがいいのかなと思っ ていま す。
ちなみに何処の電子カルテを検討中ですか?
良かったら教えてください。

Posted by 城田 繁 at 2006年08月03日 08:04
電子カルテ、後半部も書きましたので、下記のトラックバックを見て下さい。
具体的な会社名はあげていませんが、私も画像管理、の点から島津製作所のSimCLINIC IIも候補の一つです。ただ、書いたように、産婦人科で欲しい時系列カルテの作成に関しては、営業の方からお寒いプレゼンを聞いてしまっており、カスタマイズをうたっている割にはどうかな、と、今のところ準候補にしています。
今月中に2社、デモをお願いする予定です。それが終わったらまた報告します。
Posted by 桜井明弘 at 2006年08月13日 03:48
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電子カルテ導入(後半)
Excerpt: 以前の記事の続きです。 https://blog.seesaa.jp/tb/20870525 電子カルテを作る業者さんは沢山あり、既に3社にデモを行ってもらいました。 甲乙つけがたい、というか、どこも機..
Weblog: 産婦人科クリニック さくら
Tracked: 2006-08-13 03:09

電子カルテ WINE STYLEに決定
Excerpt: 以前の書き込みからの時間経過を考えると、「ずいぶんと決定までに時間がかかるものだなあ」思われるでしょうね。 http://cl-sacra.seesaa.net/article/20870525.ht..
Weblog: 産婦人科クリニック さくら
Tracked: 2007-02-21 16:47