興味本位で記事に接した人もあるかと思いますが、私はお二人の勇気を好意的に受け止めています。
以前にも書きましたが、私は決して代理出産賛成派ではありません。なぜなら、妊娠、出産、その手に子供を抱(いだ)きたい、この気持ちは十分分かっているつもりであるものの、その人の願いを叶えるための犠牲が、つまり代理出産する人のリスクがあまりにも大きい、というのが最終的に同意できないのです。
産婦人科医の端くれとして、これまで分娩や出産に携わってきた経験からすると、出産は命がけです。その命がけの行為を、自分の子供が欲しい、という願いから自分以外の人に、たとえそれが肉親や親しい人であっても、依頼をする、それを手助けすることが医療行為として正しいのか、とさえ思えるのです。
とはいえ、諏訪マタニティクリニック院長の根津先生は、患者さんの思いを尊重し、また治療を行いそれを公表することで、法制化などが推進されることを願っているのだと思います。
その根底には、遅々として進まないわが国の生殖医療に関する法制化があります。現在日本には代理出産や卵子提供を定めた法律がなく、今後商業的な治療が横行する可能性すら秘めています。
医療技術は日々進んでいきます。生殖医療も医療界の中では速いスピードで技術革新がなされた分野です。技術的に可能なことに、法律はもちろん、その技術をめぐって、ほとんどの人が倫理的な善悪を判断するのが追いつけないのが現状です。
私もこの国に住む人々が、代理出産の善し悪しを、自分が不妊だったら、自分の身体では埋めない、と言う立場で、また、自分以外の不妊症カップルのため代わりに妊娠、出産する行為、その重さを真摯に考え、ぜひ議論していただきたいと思っています。
法制化は急務ですが、国が定める法律は、国民の幅広い議論がなされ、成立したコンセンサスの下に成立するべきだと思います。そのために、勇気を持って皆さんの前に現れた母子に賞賛を送るとともに、もう一度、子供を作ること、を周囲の人たちと話し合ってみませんか?
私が医療監修をさせていただいた、映画「ジーン・ワルツ」の大きなテーマのひとつに、この代理出産があります。このブログを読んでくださってる方々から、原作「ジーン・ワルツ」読みました、と言ううれしい報告もいただいています。あわせて皆さんがこの問題を考える素地として、手にとっていただけたら、と思います。
尚、われわれ産婦人科医の大多数が所属している、日本産科婦人科学会からは、今回の「代理懐胎報道について」、声明を発表しています。
学会は、国の機関である、厚生科学審議会生殖補助医療部会の決定を受け、現段階では原則禁止、日本学術会議における「厳格な条件の下での思考を考慮」を紹介し、さらにやはり法制化を促進するよう、提言してます。
沢山の患者さんがいる中で、このような相談まで聞いていたら本当にきりがないと思うのですが、ご相談させていただければありがたいです。
不妊治療の中なかなか結果が出ず、日々言い知れぬ不安と焦り、悲しさを感じています。治療期間が長くなるにつれ、そのことが常に頭を離れず、最近では友人と会う事さえ憂鬱になってしまいました。世の中には子供がいる方もいない方も、それぞれの人生があり、優劣がつけられるはずもなく、どの人生も意味あるすばらしいものだと思っています。しかしいざ自分の事となると、母親になれない自分、主人を父親にしてあげられない自分、親に孫を見せてあげられない自分は、本当に夫不幸、親不孝で、情けなく悲しくなります。今後ももう暫くは治療を頑張りたいとは考えているのですが、不妊治療に臨むにあたり、向き合い方や、アドバイス、又は喝(?)などいただければありがたいです。
お忙しい中このようなご相談で申し訳ありませんがどうぞよろしくお願い致します。
RONNさんのコメント、とても簡潔に不妊であることの深刻さ、そして不妊治療の重さを書いていただきました。
当院スタッフともRONNさんの書き込みを読ませていただき、改めて不妊とは、不妊治療とはについて話し合う機会を持つことができました。
この問題については、述べ始めたらきりがないほどとても大きな問題なのですが、ひとつ根本的なことに触れると、RONNさんも書かれたように、子供を持つということが、人生の中で必ずしも必要条件ではないということですね。
ただ周囲の意見もあり、また最初から妊娠をしない、と決めていなければ、いつかは子供を持つ、ということは普遍的にどの方にもあることです。
「できて当たり前、できないとおかしい、作らなければいけない」、簡単に書けることではないはずですが、そうではない人生も選択肢の一つです。
我々は目の前に赤ちゃんがほしい、妊娠したい、という方が現れれば、その方にあった方法、そのカップルの価値観に合わせて妊娠しやすい方法を提示する、といった検査や治療を行っています。
いろいろな解決法もありますが、治療が重なって心身ともに疲れてしまった場合、思い切って数ヶ月の間お休みする、気分転換を図り、冷却期間をおく、というのもひとつの方法だと思います。
また外来でお一人お一人に耳を傾けてお話を伺いたいのですが、なかなか時間が取れないこともあります。
差し支えなければスタッフが対応できることもありますので、外来時に遠慮なくお話ください。
お一人ですべて解決はできないでしょうし、それをお手伝いするのも我々の仕事だと思っています。
また、日々自分だけ取り残されていくような孤独感も感じておりましたので、スタッフの皆様とお話し合いの機会を持っていただいた事を大変ありがたく思います。
落ち込むことも多いですが、先生がお書き下さったように、あらゆる人生のあり方、選択肢を考えながら、もう暫く前向きに治療を続けていきたいと思います。今後もどうぞよろしくお願い致します。
次回外来受診の際にでも、お気軽にお声掛け下さい。