2007年の参院選の際にも民主党、公明党のマニフェストの中、医療関係の公約についてコメントしました。
若年層の選挙離れ、政治無関心がある一方で、今回は政権交代の可能性を秘めた選挙です。
どの政党が政権を握るのか、その政党は我々国民の命を守る医療をどうしようとしているのか、やはり無関心ではいられません。私にも難しく、いいのか悪いのか分からないこともありますが、医療現場からみた選挙公約を一緒にみていきたいと思います。
さて、今回の衆議院議員選挙で最も早いマニフェストの発表は、与党の公明党からでした。大きな政党では意見をまとめるにも時間がかかるのかもしれません。民主党からは概略が公表され、27日、鳩山代表からの正式発表があるそうです。
公明党のマニフェスト、医療に関する大項目は、「2 命を守る政治」と「3 人を育む政治」があります。
少し長くなりますが、それぞれ小項目の中から拾ってみると、
「大学病院の充実;医学教育の中核を担っている大学病院の医療環境を飛躍的に向上させるため、(中略)医師等勤務環境の改善や救急医療体制の整備に取り組みます」
医師は技術職です。国家試験に合格してすぐに治療を行える技術があるわけではありません。大学等の研修施設で丁稚奉公のように地道に技術を磨いていくのです。しかしこれまでの勤務医の待遇があまりにも劣悪であったため、このような取り組みは評価できると思います。
「医療費水準・医師数等の水準の引き上げ;先進国の水準に比較して低い医療費および医師数等の水準を引き上げ、医療提供体制の強化と医療従事者の処遇の改善を図ります」
私もこのブログで書いたことがありますが、医療水準の向上には医療従事者数増加と、それを上回る医療費の増加が必要であると思います。これまで与党が医療費削減を叫んできた中で、与党内の公明党がこのような考えを持っているのには、少し驚きました。
「医師等の医療人材の養成システムの改革と充実;医師等の養成数の充実を図るとともに、研修体制の見直しと医師派遣システムの強化を行い、医師不足地域の解消に取り組みます。また、救急・産科・小児科・麻酔科などの医師が不足している診療科を解消するため、診療報酬の充実や臨床研修における科目ごとの医師養成数の目標の設定など取り組みを進めます」
「女性医師等の復職支援の実施;育児休業取得や短時間勤務の推進、院内保育所の整備、女性医師バンクの体制強化など、女性医師・看護師等が安定して働き続けられる環境整備の充実を図ります」
ともに現在の政権で目指している医師不足解消の方策です。後者は日本医師会もすでに取り組んでいます。
「勤務医等の勤務環境の改善;病院医療における医師等の過重労働の解消のため診療報酬上の評価の充実を図るとともに、医師事務作業補助者の充実など勤務環境の改善のため直接的な財政支援を進めます」
勤務医の激務を評価、再考している項目で、期待できますが、財政支援がすなわち過重労働の改善にならない、病院の実益になってしまう可能性があり、詳細に検討する必要があります。
「看護師など医療従事者の職務拡大;専門性の高い認定看護師などを評価するシステムづくり、助産師の資質向上を図る、(後略)」
すでに看護師にも専門性が求められており、この流れを支持するものとなるでしょう。
「医療の安全の確保と医療事故の補償体制の強化充実;出産等に伴う無過失の医療事故を救済する「産科医療補償制度」の円滑な運用を進めます。医療事故の原因究明の体制を整備し、医療の安全対策を強化するとともに、医療事故における裁判外紛争処理制度を創設します」
ともに我が恩師である木下勝之日本医師会常任理事、日本産婦人科医会副会長が中心となって制度創設に尽力されています。前者はすでに機能しており、後者についてもかなり詰められた現状です。政権交代となった場合、どうなるのでしょうか。
「画期的な新薬の開発促進、審査・承認の早期化」
歓迎したいですが、医療費削減目的にやみくもにジェネリック薬が推奨されている現状では、国内の製薬メーカーは新薬開発の体力が無くなってきている問題点があります。日本は世界でも有数の新薬の承認が遅い国です。この点、患者さんのメリットにもつながり、医療現場では歓迎できます。
「社会保険病院・厚生年金病院の地域医療の機能確保」
存続、廃止論がありますが「公的医療機関としての機能を存続できるよう、早急に対応」するそうです。
「レセプトオンライン請求義務化の見直し」
すべての医療機関に義務付けられる方向で検討されている項目ですが、反対論も多く、見直す方向のようです。
我々のような小さな開業医には大きな負担となる可能性があるのです。
救急医療について、公明党は詳細に、積極的な取り組みを示しています。
項目だけ挙げますが、「15 分ルールの確立」「ER(救急治療室)の拡充」「小児集中治療室(PICU)を備えた小児救命救急センターを整備」「ドクターヘリの全国配備50 機を促進」「都市型ドクターカーの普及を推進」「DMAT(ディーマット)体制の拡充」※DMAT:大地震や航空機・列車事故といった災害時に、被災地に迅速に駆け付け、救急治療を行うための専門的な訓練を受けた医療チームDisaster Medical Assistance Teamの略称
ただ、ドクターヘリも整備されても運用されていない現況があります。これだけの医療体制を担う医療関係者の数だけでも相当数必要で、どのように確保するのか、課題は山積していると思います。
がん対策は
「がん検診率50%以上」「女性のがん検診の充実」「子宮頸がん予防ワクチンの早期承認・公費助成の導入」
後2者全文を引用します。
「女性特有の子宮頸(けい)がん、乳がん検診の受診率の向上を図るため無料クーポン券、検診手帳などの事業を継続します。また乳がん検診の精度向上のため、マンモグラフィー検診に加えて超音波(エコー)検診の導入・併用を進めるとともに、読影医の養成・確保など検診体制の充実・強化を図ります」
「若い女性に急増する子宮頸がんの征圧へ、予防ワクチンの早期承認とともに、ワクチン接種に対する公費助成の導入を推進します」
がん検診の無料クーポンについて、近日中にお知らせしますが、今年の補正予算内の単年限りの予定でした。これを継続する公約です。また我々が強く望む子宮頸がん予防ワクチン摂取について、公費助成を掲げています。与党の公約として歓迎したいと思います。
「セカンドオピニオンの体制の整備」
がん対策のみならず、難治性の良性疾患についても、触れてほしいです。
「学校におけるがん教育の見直しと教科書や副読本を充実」
婦人科領域では子宮頸がんがこれにあたります。性教育の中に取り入れてほしいと思いますが、教育現場の方々でさえ、全く理解していない方もあり、一刻も早い対応を望みます。
また「新型インフルエンザ対策の推進」も現在政府が提唱している内容を公約に挙げています。
女性医学の項目もあります。全文引用します。
「『女性健康研究ナショナルセンター』(仮称)の設置・女性専門外来の拡充」
性差医学の考え方を踏まえた女性の健康に関する研究を専門に行う「女性健康研究ナショナルセンター」(仮称)を設置し、生涯を通じた女性の健康支援の充実を図ります。また女性専門外来の全国的な拡充を進め全都道府県での開設を実現します。
「女性の健康を一生涯サポート」
予防接種や治療歴、出産、健康診断の記録や、病気の予防情報などを記載した健康パスポートを発行し、女性の健康を生涯にわたってサポートする体制を構築します。また骨粗しょう症や貧血、乳がん、子宮疾患等の予防と早期発見のために、女性特有の疾病に対する健診の充実を図り、受診率を向上させます。
女性医学に対して、公明党と民主党が積極的、と聞きます。前者はどのような内容なのか、詳しいことが知りたいです。
「子育て、少子化対策」では、「幼児教育の無償化」「児童手当の抜本的拡充」「保育所等の機能強化を図る抜本改革と待機児童ゼロの強力な推進」「妊婦健診の完全無料化の推進」「出産育児一時金の拡充」「乳幼児医療費の負担軽減の推進」「中小企業の育児支援策の充実」「地域の子育て支援体制の充実」など
育てやすい環境、産みやすい環境の整備のため現在問題となっている事項について対策を考えています。
総合的に見て、医療改革についてこれまで医療費削減、日本の医療水準は低下していくのではないか、と懸念してきましたが、与党内から転換した方策が示されたことは意義が大きいと感じました。財源については専門外なので、詳しく分かりませんが、人的資源をどのように確保するのか、はまだまだ検討の余地が大きいと思いました。
また、今回のマニフェストで残念だったのが不妊治療について触れられていないことです。特定不妊治療費助成が開始されていますが、まだまだ費用面や精神面のサポートが必要です。不妊治療の敷居が低くなり、成績が向上すれば少子化対策にもつながるものと思います。患者さんに対するサポートと治療研究に対して言及してほしかったです。
「ボートマッチ」ってご存知ですか? 読売新聞の読売オンラインの中に「日本版ボートマッチ」があります。
さまざまな政策についての考えを簡単に選択していくと、自分の考えと政党の考え方の近い、遠いが分かります。
ちなみに私は最も近い考えが国民新党、続いて日本新党、民社党、民主党の順でした。意外に小政党と意見が近いんだと、気付かされました。どの政党に投票したらよいか分からない、もひとつの政治離れの原因だと思います。数分で終わりますので、是非試してみてください。
2009年8月6日更新
民主党マニフェスト分析をアップしましたので、あわせてご覧ください。