2008年12月17日

HPVワクチンで子宮頸がん撲滅

HPVワクチンについて、以前に記事にしました。
ワクチンの承認申請をしている製薬会社の担当者の方とお会いする機会があり、情報交換を行いました。

これまで子宮頚がんの、発症原因としてHPV感染がある、とこのブログで繰り返し書いています。

萬有製薬が承認申請を出しているHPVワクチン(ガーダシル)は、対象が9歳から26歳となっています。またこのワクチンはHPV(ヒトパピローマウイルス)の中でも、特に子宮頚がんの発症と関連のある高リスクHPVを含む、HPV6,11,16,18型のワクチン(4価ワクチン)です。

すでに海外における2万人以上を対象とした臨床試験において、HPV16及び18型に起因する子宮頚がん、外陰がん、腟がん、それらの前がん病変並びにHPV6及び11型に起因する尖圭コンジローマを予防し、また大きな副作用も無かったという結果が確認されており、効果には大きな期待を寄せられています

このワクチンは産婦人科臨床医の立場としては、強く勧めるワクチンですが、果たして、日本国内でこのワクチンが広められ、投与されるのか、という点で幾つかの疑問点があります。

第一にワクチン(予防接種)という観点から、公費負担が受けられるか、国や自治体が一部でも負担をするか、という点です。現在の経済不況がさらに進み、また、いかに医療費を削減しようとしているか、という時代に、例えば9歳から26歳の女性を対象としたワクチン事業を国や自治体が取り上げるでしょうか。
医療経済的に試算しないと分かりませんが、ある年齢以下を公費接種対象にすると、理論的には数十年後にはワクチンの効果があるHPVをもつ女性がほとんどいなくなります。そうするとそのころには子宮頸がんにかかる女性が少なくなるので、子宮がん検診のシステムも大きく変わり、全女性が毎年受ける必要が無くなってきます。また子宮頸がんがほとんど発症しなくなると、現在子宮頸がん治療にかかる医療費の激減が期待されます。
何より子宮頸がんで苦しむ女性が激減することが大きいです。
子宮頚がん検診で異常を指摘されると、悪性の診断が下らなくても、たびたび細胞診や組織診を受けなければならず、そのたびに結果が出るまで不安な時間を過ごします。通院の手間や時間、コストも徐々にかさみます。
ひとたび重度異形成の診断が下ると、手術の対象となります。子宮頚部だけを切除する円錐切除や、初期の上皮内がんでは子宮摘出が行われます。さらにそれが進行がんとなると広汎子宮全摘術、子宮はその周囲組織を含めて大きく切除しなければならず、卵巣、骨盤内のリンパ節と手術範囲は大きくなります。広汎子宮全摘術では手術時の合併症もリスクとして高くなります。膀胱や尿管の損傷、手術時の出血は多くなり輸血を要することも多いです。術後、尿の流出が悪くなり、尿意の減少に悩むこともあります。たいてい術後は放射線療法が必要となり、最近では化学療法(抗がん剤治療)も行われるようになりましたが、放射線も抗がん剤も副作用、合併症が多いです。
手術が不可能な進行がんでは放射線・化学療法が行われますが、ここまで進行すると完治はほとんど望めません。
年間8,000人もの女性が子宮頚がんを発症し、こういった治療が行われているのです。また治療もむなしく毎年2,500人が子宮頚がんのために亡くなっているそうです。最近では特に20〜30歳代の前がん病変、子宮頸がんが増えているのが問題となっています。

第2の問題点は、接種費用です。開発国である米国で約360ドルほど、他の薬剤と同様、日本に輸入され流通されると、投与は50,000円を超える予想です。それだけ高いワクチンなので、自費診療で受けるのは誰にでも大きな負担となるでしょう。保険診療の対象とはならないため、自費か公費で全額、といわないまでも一部負担をして欲しいものです。なお、米国では、疾病予防管理センター(CDC)が定める「子どものためのワクチン(Vaccine for Children、VFC)プログラム」に導入され、所得に応じて無償提供されているそうです。フィリピンでは検診を行うほうが負担が大きいと判断し、国が国民に投与しているとのことです。オーストラリアでも、12〜26歳までの全ての女性が無償で接種できる予防接種プログラムが導入されているとのことです。

最後の問題点は、HPV感染が、日本人が苦手とする性の問題に関係していることです。
繰り返し書いていますが、HPV感染は性行為によって感染し、長期間にわたる感染状態が持続すると(時に短期間で)子宮頚部に前がん病変といえる子宮頚部異形成を形成し、やがて最初は子宮頚部上皮内がん(初期がん)、進行がんと進展します。
短絡的に考えれば、性交渉が将来の子宮頚がんの発症の発端です。ワクチン使用年齢の9歳以降の女の子に、「将来、性交渉をするようになり、子宮頚がんの原因であるHPVに感染するかもしれないから、今のうちにワクチンを使っておきましょう」という理論でワクチンを使います。

どうでしょうか、少々違和感を感じませんか?

ただ、性交を持つようになるのは人間として自然なことですし、日本では性の低年齢化が確実に顕著に現れているのも事実です。我々は現実を直視し、次代にHPV感染の惨禍を残さないようにしなければならない、これも現代医療とその技術を享受する我々が背負う、使命、とも考えられます。

私の夢のひとつに、HPVワクチンの開発、承認によってもたらされた、子宮頚がん撲滅が出来ました。
承認、投与が可能になったらこの夢の実現のために新しいプロジェクトを立ち上げたいと思います。


さくらスタッフブログ、「新型インフルエンザ対策」シリーズが始まりました。医療関係者だけではなく、国民全体の問題として共有していきたいと思います。
posted by 桜井明弘 at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 子宮頸がん・HPV | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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