2008年10月24日

都内で7カ所の病院に受け入れを断られた妊婦、脳内出血で死亡。

またしても痛ましい事件が起こりました。

東京都内で7カ所の病院に受け入れを断られた36歳の妊婦さんが、都立墨東病院で脳内出血の手術を受けた後、亡くなりました。喜びを迎えるはずの妊婦さんの無念、ご遺族の悔しさは、想像を絶するものがあります。

22日、都と墨東病院が記者会見し「当直医は当初、脳内出血だと分からなかった。分かっていれば最初から受け入れたはず」と説明しました。その上で「一連の判断は妥当」と主張し、医療過誤ではないとの認識を示したということです。

墨東病院に受け入れを依頼した江東区のかかりつけの産婦人科医院長も会見し、当初の妊婦の容体について「自宅に救急車が到着する直前から頭が痛いと訴えた。尋常ではなく頭部の疾患を疑った」とし、病院に「七転八倒している状況を伝えた。頭を抱えて『痛い、痛い』と言っていると伝えた」と説明、かかりつけの産婦人科医院の医師が、当初から脳内出血の診断を墨東病院の当直医に伝えていたのではないかとの質問に、都の幹部は「詳しいやりとりは調査中で分からない」と答えたそうで双方の認識に食い違いがあると報道されています。

また当直医は、受け入れ可能な周産期医療センターなど3病院を端末で検索、かかりつけ医はそれらを含む計8病院に問い合わせたが、7病院で断られたことも会見で判明、断った病院の当直体制について、都側は「調べてみないと分からない」としました。かかりつけ医は、目の前の患者さんの処置、手当をしながら、7箇所の病院に連絡をしなければならなかったのです。

この事件を受け、総務省消防庁は23日、救急隊員らが患者や負傷者を運ぶ際に、重症度や緊急度に応じて搬送先の医療機関を選ぶ基準を作成する方針を固め、同庁の有識者検討会に提案し、基準の内容などについて具体的に議論するそうです。悲劇的な事件が起こってしまってから、ようやく救命救急センターなど高度医療機関への集中を防ぐとともに、医療機関による救急患者の受け入れ拒否問題の改善にもつなげることを狙いとした基準作成が行なわれつつあります。

「国が患者らの容体と搬送先について明確な基準を定めておらず、自治体が独自に判断しているケースが多い」ことも問題の一端だと思います。

この検討会では、この事件の問題について、石井正三委員(日本医師会常任理事)から「(医療に関する)予算を削って質を維持するのは無理だ」とする発言もあった、まさにその通りだと思います。

国の医療費削減や産科医療に対する厳しい風当たりが、産科医療を崩壊させています。

墨東病院では妊婦が搬送された当日は研修医1人が当直、都は、指定医療機関としての態勢に不備がなかったか経緯を詳しく調べるとのことですが、病院からするといまさらという気持ちでいっぱいだと思います。

新聞記事では、一度断ったものの、1時間後に受け入れたことから、「最初から受け入れられたのではないか」としたり、「病院が一ヶ所しかない地方と異なり、都市部は自院でなく他にも受け入れられる、と言う意識があるかもしれない」という厚労省幹部のコメントには正直憤りを感じました。

マスコミもそうですが、医療機関を束ねる立場である厚労省からあまりにも医療現場の現況を知らないコメントに、この国のお粗末な医療行政に不安を感じました。

受け入れを全くするな、と言うのであれば、墨東病院に限らず、充分な受け入れ態勢を24時間整えなければなりません。それを満たせるマンパワーの供給も無く、今回の結末だけをとらえて現場に責任転嫁する姿勢に、寂しさ、悲しさ、怒りを抑えきれないのです。

責任を追及することも大切ですが、何より再発防止に国が立ち上がって日本の医療体制整備に努めてほしいと思います。

(この記事は神戸新聞を参考にさせていただきました)
ラベル:脳内出血
posted by 桜井明弘 at 01:20| Comment(4) | TrackBack(0) | 産婦人科医の医療日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。本当に、悲しい痛ましい事故がまたも起きてしまいましたね。確かに、医師不足が問題になっていますし、医療現場は、私達一般人には想像をはるかに超えるほど大変だと思いますが。何のための病院なんでしょうか。そう思えてなりません。これから子供を産みたいと思う女性にとって、本当に、心配で、恐ろしくも感じてしまいます。これでは、日本は、ますます少子化に拍車がかかりますね
Posted by ふ-ちゃん at 2008年10月24日 20:20
ふーちゃんんさん、こんばんは。「何のための病院なんでしょうか」、確かにそうですね。理想を言えばいつ、どの地域でも最高の医療を受けられる、と言うことでしょうが、日本の医療は今までその目標達成を怠っていました。というより、国や厚労省が本腰を入れていませんでした。

これまでの医療水準は、医療者それぞれや病医院の開設者が独自に努力をしてきた賜物なのです。それで世界最高レベルの医療を保ってきたこと自体が奇跡的です。

少子化は社会構造、特に子育て支援体制が整っていないことなどに一番の問題がありますが、産む施設に不安を抱えていたら妊娠、出産ができませんね。これも少子化の一因でしょうね。
Posted by 桜井明弘 at 2008年10月26日 21:10
東京で子供が産めなくなる日(その2) - うろうろドクター - Yahoo!ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/16924024.html

…今回の「東京陥落」よりずっと前から、墨東病院を始めとした東京の救急はSOSを出していたんですよね…。

マスコミ、役人、その他、「医療の事なんて俺らには関係ねえよ」という人間が、そのSOSを聞かなかったために「東京陥落」が起きた。

そして今でもなお「医者のモラルの問題」とか「全国各地で救急搬送を拒否した病院は患者を捨てた」とか言う人間が跋扈する事実…。(「医師は応酬義務を果たしていない」と味方を後ろから撃つ人間までいるし…。)

いつになったら、医療に無理解な人間による「医師叩き」「病院叩き」が無くなるのでしょうかね…。
Posted by 都筑てんが at 2009年07月24日 02:03
都筑てんがさん、こんばんは。
上に書き込んでいただいた「うろうろドクター」さんと都筑さんのブログ読ませていただきました。

同じように医療崩壊を憂える方のご意見、とても参考になりました。
今後もよろしくお願いします。
Posted by 桜井明弘 at 2009年07月27日 00:19
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